ベースボール・イズ・ライフ

野球好きによる野球好きのためのブログ。千葉ロッテマリーンズの試合回顧や野球評論など。

3度目の女子プロ野球へ(前編)

 

2023年4月16日。巨人の女子野球チームである「読売ジャイアンツ女子チーム」が関東女子硬式野球リーグ、通称"ヴィーナスリーグ"の初戦を迎えた。結果は8-2で見事に勝利。公式戦無敗記録をさらに伸ばすことになった。

 


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「巨人って女子野球チームがあるの?」

 

と、疑問を抱く方は少なくないと思う。巨人は2022年度から女子チームを立ち上げ、今年からついに本格的に始動した。

 

球界の盟主たる"巨人"の名に恥じない本当に強いチームで、魅力ある選手が集っている。

 

しかし、今の彼女たちは"プロ野球選手"ではない。

 

チームもクラブチームであり、彼女たちは仕事をこなしながら、野球を両立させているのだ。そんな彼女たちの野球をやる理由は女子野球の普及、そして女子野球のプロ化である。

 

 

戦後まもなく誕生した女子プロ野球

女子野球の歴史は意外と深い。諸説あるが、1947年に開かれた「横浜女子野球大会」というのが歴史の始まりだとされる。

 

当時、戦後の日本はGHQ支配下に置かれる。その中であらゆるスポーツは禁止されたのだが、「敗戦下の日本国民に娯楽を与える」という名目の下、野球は一足早く解禁され、それどころか後押しを受けるように推進される。これらの運動の中で、プロ野球は敗戦後の国民の希望となり、今の礎となる地位を確立したのだった。

 

その一連の動きの中で行われたものなのだろうが、やはり"余興"レベルで、本格的なスポーツと言えるレベルではなかったと推定される。

 

1950年には初の女子プロ野球である「日本女子野球連盟」が発足する。おそらく前年の1949年に起こったプロ野球再編問題や野球人気の勃興による煽りを受けてのことであろう。

 

見切り発車だったことは結果が示す。1952年に観客動員数だけでは経営できないということでノンプロ化。ものの僅か2年で頓挫したのだ。社会人野球として細々と続いていくものの、こちらも1971年には完全消滅している。

 

その後、女子ソフトボールの隆盛に押され、女子野球は表舞台から姿を消す。

 

 

一社のみの歪な女子プロ野球

2度目の女子プロ野球、「日本女子プロ野球機構」(JWBL)が発足したのは2009年。実に半世紀以上後のことであった。

 

女子野球はソフトボールの影に隠れながらも、高校生・大学生を中心とした学生野球の舞台で少しずつ輪を広げ、その歩みは遅くても着実に女子野球のバトンを繋いでいた。その中でのプロ化は関係者にとってのささやかな願いが叶った瞬間だったのだろう。

 

しかし、その実態は「わかさ生活」一社が運営している社内野球リーグのようなものであり、半分社会人野球のような側面を持つ歪なものだった。

 

それでも、このJWBLが果たした功績はあまりにも大きい。それまでほぼ横ばいでしか伸びていなかった女子野球人口がJWBLの発足を転機に急増したのだ。

 

ただ、問題となったのはやはりJWBLの興業性の乏しさである。

 

最初は物珍しさもあって安定した動員数をたたき出していたが、徐々に減少。その間、行き過ぎとも言えるファンサービスなど興行的要素を打ち出すなど、必死に繋ぎ止めようとしていたが、2019年には当時JWBLに所属していた71人のうち約半数以上となる36人が退団。2020年にはとどめを刺すようにコロナ禍に襲われた。

 

長年の赤字経営が響き、ついに2021年には無期限活動休止。事実上の消滅となり、約12年間に渡る2度目の女子プロ野球は幕を閉じることとなった。

 

以前からこのJWBLの存在を知っていた私は、実に惜しいと思っていた。もしNPBがチームを持って同じようにリーグ戦を行えばもっと盛り上がるのではないか、なぜNPBは参入及び協力しないのか、と疑問を抱いていたのだ。

 

 

NPB女子チーム発足、女子野球の未来とは

そんな中、大きな動きが起こる。2020年1月にJWBLから離脱した選手を中心に初のNPB公認球団となる「埼玉西武ライオンズ・レディース」が発足したのだ。

 

さらに翌年の2021年1月には「阪神タイガースWomen」、そして2022年に「読売ジャイアンツ女子チーム」がそれぞれ相次いで立ち上げ。JWBLの無期限活動休止に伴い、皮肉なことにこれまで傍観を続けていたNPB側がアクションを起こしたのだ。

 

この3チームの内、西武に関しては屋号だけを借りているような形態なのだが、阪神と巨人に関してはクラブチームでありながらも、監督やコーチは球団OBが就任して練習環境として2軍施設を使用するなど、球団側が本腰を入れてチームを作り上げている"本気度"を肌で感じる。

 

そして、この2チームの本拠地である阪神甲子園球場東京ドームはそれぞれ2021年から夏の全国大会である「全国高等学校女子硬式野球選手権大会」、2022年から春の全国大会である「全国高等学校女子硬式野球選抜大会」の決勝の舞台となっている。

 

特に高校球児の聖地である甲子園で女子高校野球の決勝が行われたことは大きな話題を呼び、女子高校野球のみならず女子野球界に大革命をもたらしたと言っても過言ではない。実際、JWBLが無期限活動休止となった2021年以降も女子野球の人口は減るどころか、過去最大級のレベルで増加しているのだ。

 

その中で、野球少女たちの目指すべき夢の舞台、ピラミッドの頂点としての受け皿的役割をNPB女子チームは期待されている。まだまだ手探りの中、今年もそれぞれ地域毎に開かれるリーグ戦やクラブチームNo.1を決める全日本女子硬式野球クラブ選手権大会などを戦い抜く予定だ。

 

また、特筆すべきなのは、今年の夏頃に甲子園にて「阪神タイガースWomen」対「読売ジャイアンツ女子チーム」の試合を行うことだ。

 

女子チームによる"伝統の一戦"の開催は、おそらく今後の女子野球界にとって大きな意味を持っていると思う。この試合の反響次第では、3度目の女子プロ野球へと大きく前進することも考えられるのだ。その際は間違いなくNPB女子チームが中心となって行われるものになろう。

 

その一方で、必ず越えなければいけない壁がある。それはずばり、女子プロスポーツの興業性である。

 

 

 

――後編に続く。

 

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