ベースボール・イズ・ライフ

野球好きによる野球好きのためのブログ。千葉ロッテマリーンズの試合回顧や野球評論など。

女子野球版"伝統の一戦"は、新たな女子野球の夜明けとなる

 

2023年4月24日。かねてより行われると言われていた、阪神タイガースWomen対読売ジャイアンツ女子チームの"伝統の一戦"の正式な日程が決まった。

 

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第1戦は7月22日に阪神甲子園球場で、第2戦は翌週の29日に東京ドームでそれぞれ1戦ずつ行われる予定だ。互いの本拠地で行われることからも共にこのプロジェクトに対して力を入れているのが伝わってくる。

 

以前、女子野球について触れたことがあるように、阪神と巨人には女子チームがそれぞれ存在している。

 

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NPBの長い歴史において女子チームが創設されたのは初のこと。まさしく歴史的快挙だった。その中で阪神と巨人の伝統の一戦が女子チームでも行われるということは、非常に価値があることで、女子野球の大きな転機になるかもしれない。

 

具体的に言えば、女子野球のプロ化である。

 

彼女達は阪神と巨人という名前こそあれど、実態はクラブチームであり、プロではない。野球以外の職を持ちながら休日などを利用して練習や試合を行っているのだ。

 

かつて女子プロ野球は2度存在しており、色々な経緯があって残念ながら2度とも"失敗"に終わった(詳しくは上記にリンクした記事を参考にしてもらいたい)。今現在女子野球にプロ派存在しない。しかし、高校女子野球大会決勝が甲子園で行われることから、女子野球の人口が増えている良い流れだからこそ、彼女達の大きな目標となるプロという夢の舞台があればさらに裾野を広げることに繋がるはずだ。

 

女子野球の今後のためにも、この"伝統の一戦"は成功させなければならない一大プロジェクトになる。では、成功の基準とはどこに当たるのだろうか? 

 

一つは間違いなく競技レベルである。

 

 

女子プロスポーツと男子アマチュア

この競技レベルとは無論、男子のプロ野球と比べて~、と言うわけではない。そこと比べるのはお門違いである。

 

で、あればどこが基準になるのだろう。

 

女子プロスポーツが男子プロスポーツと互角、あるいは上回っていると言えるスポーツは、ゴルフとバレーくらいではないだろうか。

3度目の女子プロ野球へ(後編) - ベースボール・イズ・ライフ

 

以前投稿した記事で、女子プロスポーツで成功しているのはゴルフとバレーだけではないか、という考察を行った。女子バレーは厳密に言えばセミプロで、純粋なプロという括りだけで言うと女子ゴルフになる。

 

彼女達のドライバー平均飛距離が230ヤード前後と言われており、これは男子のアマチュアゴルファーとほぼ同じ数字なのだ。飛ばし屋と呼ばれる人達は260ヤードを超えることもしばしばで、男子アマチュアをも凌駕する。

 

女子ゴルフを見に行くギャラリーの多くは男性で、尚且つ、プライベートでゴルフを嗜む人間が多いはず。つまり、この男子アマチュアの人達を唸らせるようなプレーができるかどうかが一つの基準になると見ている。

 

実際、女子プロサッカーである「WEリーグ」が苦戦しているのは、男子アマチュアレベルを超えられていないから、にあると思う。女子日本代表クラスが男子アマチュアどころか平均的な男子高校生に圧倒されてしまっていては、見たいと思えるようなレベルに到達できていないと言われても過言ではない。

 

その点において、女子プロ野球が成功するには男子アマチュアの所謂"草野球"を超えられるかどうかが焦点になると思う。

 

 

女子プロ野球は草野球を超えられるか?

まずは球速から見ていこう。

 

ごく一般的な草野球の平均球速は110km/h~120km/hと言われている。なので、女子プロ野球の投手がこの球速を平均的にたたき出せることが第一条件となる。120km/hはかなりボーダーになりうる数字で、女子でこれだけ投げられたら凄いと認められるのではないかと思う。

 

2021年まで存在していた女子プロ野球「JWBL」の平均球速は110km/h前後だったので、10km/hの壁は超えられるボーダーラインだ。実際、120km/h前後を投げられる投手も両チームに多いので、やはり伝統の一戦では120キロを超える投球を見せて欲しいところである。

 

守備に関しては女子野球がここ数十年間で一番伸びたと言えるポイントだと思う。以前の女子高校野球では失策を絡めて点を取るのはもはや当たり前のことで、1プレーに1エラーは付き物といった風潮があった。

 

しかし、現在では見違えるほど守備力が上達。今年の春に行われた「全国高等学校女子硬式野球選抜大会」では準決勝辺りになるとどのチームも守備が鍛えられていて、見応えがあった。

 


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その上のカテゴリである阪神も巨人も、当然彼女達以上の上手さを誇っている。この点では現時点でも草野球を超えていると断言できるのではないだろうか。

 

ここまでは至って順調に見える。しかし、女子野球の最大の課題は打撃面なのだ。特に長打力である。

 

JWBL時代のホームランの多くは、わかさスタジアム主催試合での両翼90mラインに設置されたラッキーゾーンの恩恵を受けたもので、堂々と柵越えをしたホームランは数えるほどしかない。

 

シーズンの本塁打王も年間50試合前後で多くても2,3本前後。ラッキーゾーン設置前は0本というシーズンも存在したほどである。なので、今後行われる予定の伝統の一戦でもホームランを期待することは酷だと言える。

 

やはり体格差という点は考慮しなければならない問題である。今のところ女子野球選手の平均身長は160cm前後といったところ。草野球を嗜むであろう一般的な男性の平均身長は170cm前後なので、平均身長が160cm台中盤から後半くらいは欲しいところだ。

 

170cmを超える選手が増えてくると、自ずと長打は出るのではないかと見える。これらの問題は競技人口が増えることに伴い、体格に恵まれた選手やフィジカルエリートと呼ばれる選手も増えるはずなので解消に向かうと思われる。また、NPB女子チームの利を活かして、元NPB選手の指導を受けることでレベルアップも期待できるだろう。

 

あとはどの球場でも簡易フェンスを張ってホームランを出やすくする環境を整えることも大事になってくるのはないだろうか。この辺りは以前話した「競技性のハンディキャップ」を利用して、特別ルールを設けながら上手くやりくりして欲しい。

 

 

成功ラインとその先にある未来

女子野球版"伝統の一戦"ではチケットを販売することが決まっている。つまり無料ではなく、その先を見据えての有料興行としてのテストも兼ねているのである。

 

その中で成功と言えるラインは1000人以上及第点で500人以上と言うところではないだろうか。

 

500人という数字は一つの基準点で、ファームリーグの平均観客動員数であったり、独立リーグの採算ラインでもある。仮に女子プロ野球リーグが発足するのであれば、少なくとも毎試合はこの数字をクリアして欲しいラインとなる。

 

それでも、やはり"伝統の一戦"や"NPB女子チーム"ということを考慮すると、観客動員数は4桁を超えてもらいたい。

 

これからプロモーションに力を掛けていくはずで、女子チームの存在を知らない阪神ファンや巨人ファンも巻き込んでいくことになる。その宣伝効果は同じNPBの女子チームだということで絶大だと言える。これは従来の女子プロ野球にはなかった恩恵なのだ。

 

この興行が成功するか否かで、3度目の女子プロ野球が始まるかどうかが決定するといっても過言ではない。もし、観客動員数が1000人以上超えれば、職業野球として一定の目処が立ったとみて、今は傍観している他のNPB球団も女子チーム創設に動くだろうし、女子野球のプロ化へと一気に進むはずだ。

 

女子野球の夜明けが来るその日まで。引き続き、野球ファンとしては見守っていきたいところである。

 

佐々木朗希の無失点記録はどこまで続くのか?/もはや外国人野手は助っ人ではない

 

2023年4月21日。今シーズン3度目のマウンドに上がった佐々木朗希はこの日も危なげない投球を披露し、7回無失点。3勝目を挙げた。

 

これで初登板からの無失点イニング数を20イニングまで伸ばした。ちなみに、NPB記録では初登板からの無失点記録は1963年の阪神中井悦雄投手が記録した31イニングであり、記録更新が掛かるのはあと2試合となる。

 

果たしてこの数字がどこまで続くのか。31イニングというNPB記録ですら、この令和の怪物には通過点のようにしか見えない。それだけ今年の佐々木朗希の進化は特筆すべきものがあるのだ。

 

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以前、この記事でも触れたように、去年までと今年の朗希の最大の違いはストレートの質にある。

 

昨日も序盤はフォークの制球が思うように決まらずやや苦しんでいた。去年までの朗希ならば、ストレートを狙い打ちされて痛打されて失点を重ねていたはず。しかし、今年は例えストレートを狙われたとしても、簡単には打てないクオリティにまで仕上がっているのだ。

 

おまけに元々四球は出さないコントロールの良さ、100球前後まで投げきれる体力面も備わってきたとなると、相手打線からすればどうやって点を奪えるのかイメージすら湧かないのではないだろうか。

 

投げる度に我々の期待を超え、遙かなる高みへと登り続ける佐々木朗希。ファンとしては、彼が一年間無事にシーズンを戦い抜けることを祈るばかりだ。

 

また同日。千葉ロッテマリーンズに新たなニュースが舞い込む。それは、新外国人であるシェルテン・アポステルの獲得だ。

 

 

NPBで苦戦が続く外国人野手

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アポステルはオランダ領キュラソー島出身の24歳の内野手。193cm106kgの巨体を活かしたパワー溢れる打撃が売りのパワーヒッター。

 

2020年には当時レンジャーズでメジャーデビューを果たすなど、早くから期待されていたのがわかる。マイナー級では通算50本塁打を放っているものの、そのほとんどがシングルAでのものなので額面通りの期待はできないだろう。また、三振率の高さもやや気になるところではある。

 


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実際、育成契約としての入団なのも頷ける。彼の期待値は現時点での能力云々というよりも24歳という将来性であろう。そこには近年の助っ人外国人野手の不振が関係していると見ている。

 

NPBではここ数年外国人野手の苦戦が続いている。かつては毎年のように助っ人外国人野手が本塁打王を獲得していたのだが、両リーグを通じて2019年のネフタリ・ソト(DeNA)を最後に3シーズン途絶えているのだ。

 

ちなみに、両リーグ通じて3シーズン外国人野手が本塁打王を獲得しなかったのは、2リーグ制以降初となる本塁打王に輝いた1974年のクラレンス・ジョーンズ(近鉄)が獲得して以来史上初のことだったのだ。

 

つまり、ここ数年に至るまでは助っ人外国人野手はコンスタントに活躍していたと言える。では、何故ここに来て活躍できなくなったのか。そこにはNPBの投手レベルが飛躍的に向上したことが深く関係している。

 

 

MLBレベルに近付くNPB投手

実はこの10年間でNPB投手の平均球速が約5.7km/hも上昇していることをご存じだろうか?

 

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2012年時点では140.4km/hだったNPB投手の平均球速が、2022年時点では146.1km/hにまで上昇している。この間、同時期のMLB投手の平均球速は148.9km/h(2012年)→151.1km/h(2022年)で約2.2km/hしか上昇しておらず、NPB投手の成長速度がいかに凄いことか理解できるだろう。

 

事実、2012年には約8.5km/hもあったNPBMLBの平均球速差も、2022年には約5km/hにまで縮まっている。

 

かつてNPBは4Aレベルと言われていたが、投手に関してはMLBにかなり近いレベルにまで肉薄しており、佐々木朗希のような各球団のエース級、沢村賞を獲得するようなトップクラスに至っては、MLB内でも上位クラスにまで迫っているのが現実だ。

 

なのに、各球団が獲得してくる助っ人外国人野手は相変わらずメジャーには一つ足りないAAA級の選手ばかりではNPBで通用しなくなるのも当然と言えるだろう。

 

 

もはや外国人野手は助っ人ではない

では、今後どういった外国人野手を獲得していくべきなのか。考えられうる選択肢は二つである。

 

一つはしっかりとスタメンで出場できているメジャー級の即戦力選手を獲得してくること、もう一つは20代前半のマイナー級素材型選手を自前で育てること、である。

 

前者はソフトバンクや巨人のような金満球団(聞こえは悪いが)にしかできない手法で、やはり単年でも5,6億を惜しみなく出せるような球団でないと無理だろう。そうなれば、ほとんどの球団は自然と後者の選択を取るべきだと考えられる。

 

今回、マリーンズが育成契約で獲得したアポステルのようなケースは今後NPBで間違いなく増えていくと考えられる。ただ、理想としては外国人野手に頼らない和製大砲を育てていくことだろう。

 

事実、昨年と一昨年の日本シリーズを戦ったヤクルトには村上、オリックスには吉田、という日本人強打者が主軸に存在していた。もはや外国人野手は助っ人ではないのだ。

 

2023年WBCを制覇した日本野球は以前のようなスモールベースボールではなく、堂々と真っ正面からパワーとスピードでMLBのメジャー級選手達と渡り合って見せた。今回の優勝は過去2度の優勝とはまた違う意味合いを持っていたのは間違いない。

 

NPBが4Aレベルというのは、もはや過去の言葉なのかもしれない。

 

3度目の女子プロ野球へ(後編)

 

前編はこちらから。

 

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前編では、3度目の女子プロ野球発足に向けて、過去2度の女子プロ野球の歴史と現在の女子野球の動きについて詳しく書いた。

 

今回の後編では、女子野球が再び"プロ化"を行う上で絶対に越えなければならない壁である"興業性"に触れていきたいと思う。

 

 

苦戦を強いられる女子プロスポーツ

日本における二大人気スポーツと言えば、野球とサッカーである。女子野球はここ数年でやっと競技人口が増えてきた一方で、女子サッカーは早くから競技人口が多かった。

 

特に2011年の女子ワールドカップ制覇の世界一、2012年のロンドンオリンピック銀メダルなどで大きな注目を集め、女子サッカー日本代表の愛称である「なでしこジャパン」の名前は世間に広く浸透していると言って良いだろう。

 

その中で、女子サッカーは2020年に女子プロサッカーリーグである「WEリーグ」を立ち上げた。立ち上げ時は全10チームで、中にはJリーグの女子チームも存在しており、大きなムーヴメントを期待されていた。

 

しかし、コロナ禍もあって思うように動員を伸ばせず、1年目のシーズンとなった2021-2022年は平均観客動員数が1,560人。目標に掲げていた5,000人の半分以下という苦しいスタートを強いられる。

 

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ちなみに同年(2022年)のJリーグの各カテゴリ別の平均観客動員数は以下の通りだ。*1

 

J1:14,328人

J2:5,019人

J3:2,722人

 

 

J1は仕方ないとしても、最下層に位置するJ3にすら遠く及ばないのが現実である。

 

この状況は2年目のシーズンとなる今現在も変わっておらず、むしろ目新しさもなくなったことから数字が落ちているというのが現状だ。このまま右肩下がりの状況が続けば、いずれはJWBLのように無期限活動休止となる未来もそう遠くない。

 

 

成功している女子プロスポーツにある共通点

WEリーグのように男子プロスポーツと比べ、集客に苦しむ女子プロスポーツは少なくない。

 

その中で女子プロスポーツが男子プロスポーツと互角、あるいは上回っていると言えるスポーツは、ゴルフとバレーくらいではないだろうか。

 

男女プロゴルフ(JGTO、JLPGA)平均観客動員数*2

(2018)男子:15,324人  女子:14,667人

(2019)男子:14,252人  女子:17,509人

(2020)男子:無観客   女子:無観客

(2021)男子:6,139人    女子:5,317人

(2022)男子:7,335人    女子:10,231人

 

 

男女プロバレー(V.LEAGUE)1部リーグ平均観客動員数*3

(2017-2018)男子:2,731人  女子:2,363人

(2018-2019)男子:2,046人  女子:2,136人

(2019-2020)男子:2,741人  女子:2,301人

(2020-2021)男子:901人     女子:717人

(2021-2022)男子:859人     女子:783人

 

 

厳密にはV.LEAGUEはプロではなくセミプロであるのだが、ゴルフに関しては完全なるプロスポーツで、賞金女王を争うトップクラスになると億単位のお金を稼いでいる。選手人口はともかく、間違いなく女子プロスポーツ界ではナンバーワンと言えるだろう。

 

この2つのスポーツにある共通点は、競技性のハンディキャップと、ユニフォームの魅力にあると私は見ている。

 

 

男子に追いつくのではなく、いかに面白く見せるか

よく女子スポーツにありがちなのが、「男子に負けないように」といった風なフレーズである。

 

男子スポーツと比べたときに、やはりパフォーマンスのスピードやパワーの違いは歴然である。これは男女間における身体能力の差におけるもので、このギャップを埋めようとする動きはお門違いである。

 

勿論、前提としてプロフェッショナルであるならば、男子に負けないという向上心は最もである。だが、正しくは、男子に追いつくのではなく、同じ競技でありながら別の競技のように面白く見せられるかということが大事になるのだ。

 

そこで、ゴルフとバレーは男女別に細かいルールが異なる。

 

例えば、ゴルフではティーの位置が男女で異なっており、コース全体の距離も違う。バレーもネットの高さが男女で明確に変更されている。

 

これらの競技性のハンディキャップによって、男子と同じくらい、いやそれ以上に見栄えのあるスポーツとしての面白さを提供できている。

 

 

男子選手にはない女子選手の華

また、男子選手にはない、女子選手特有の華を活かすことも必要になる。これをユニフォームで最も活かしているのがまたゴルフとバレーになる。

 

女子ゴルフは色とりどりのウェアが、まるでファッションショーのように美しく可憐である。選手によって季節によって移り変わり、また、ウェア自体が選手のキャラクターやアイコンとなって魅力を引き出している。

 

女子バレーも高身長の選手が多いというスタイルの良さを活かし、手足が長くて綺麗に見えるユニフォームに特化している。女子バレー選手のビジュアルが良く映るのもこのユニフォームの恩恵といえる。

 

無論、こういったものがスポーツにおいて必要ないという観点も理解できる。だが、これが興業性の求められるプロスポーツであるならば話は別だ。いかにファンを増やして楽しませられるかというのも大事な要素になる。

 

こんなことを述べているとジェンダー論に巻き込まれそうだが、あくまで客観的な立場として論じている。実際、男子と同じユニフォームに拘っているスポーツは、残念ながら人気になっていないのもまた事実である。

 

 

女子プロ野球としての興業性

3度目の女子プロ野球に向け、必要なこととは一体何なのか。

 

競技性のハンディキャップに関してまず思いつくのが金属バットを使用できる点だ。木製バットに比べ、飛距離や打球のスピードを出せるため、女子選手には足りないスピードやパワーを大幅に補える。

 

また、9イニング制の男子と異なり、7イニング制であることも投手、野手の両方において体力面の差をカバーする大きなアドバンテージになるだろう。

 

私個人としてはホームラン数の少なさを補うために、ソフトボールなどで使用される簡易フェンスを利用して球場の広さを小さくするという工夫も欲しい。

 

実際、JWBL時代に本拠地の一つであるわかさスタジアムでは、ホームランを増やすために両翼90mのラッキーゾーンを設けていたという例が存在するので、正式なルールとして定めてもらいたい。

 

これらのことから競技性のハンディキャップについては女子野球は利があると見て良いだろう。では、ユニフォームの方はどうだろうか。

 

こちらの方はスライディングや飛び込みプレイ等の安全面を考慮すると、大幅な変更はやはり難しいと言える。かつて米国に存在した女子野球「プリティリーグ」では、選手はスカートを履くという規定があったそうだが、今の倫理観では厳しいだろう。

 

では、例えば女子ゴルフのウェアのようにいっそカラフルなユニフォームにするというのはどうだろうか。

 

ホームユニフォームはNPB女子チームという強みを活かして男子と同じユニフォームを着用し、アウェーユニフォームでは女子選手ならではの華を活かした可愛いらしいデザインにするというのも一考だと思う。

 

3度目の女子プロ野球へ。今度は確実に成功させてより良いものにするために、今は土台をしっかりと築き上げている過程だ。今後も当ブログでは女子野球の今をしっかりと見つめて追っていきたい。

 

 

3度目の女子プロ野球へ(前編)

 

2023年4月16日。巨人の女子野球チームである「読売ジャイアンツ女子チーム」が関東女子硬式野球リーグ、通称"ヴィーナスリーグ"の初戦を迎えた。結果は8-2で見事に勝利。公式戦無敗記録をさらに伸ばすことになった。

 


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「巨人って女子野球チームがあるの?」

 

と、疑問を抱く方は少なくないと思う。巨人は2022年度から女子チームを立ち上げ、今年からついに本格的に始動した。

 

球界の盟主たる"巨人"の名に恥じない本当に強いチームで、魅力ある選手が集っている。

 

しかし、今の彼女たちは"プロ野球選手"ではない。

 

チームもクラブチームであり、彼女たちは仕事をこなしながら、野球を両立させているのだ。そんな彼女たちの野球をやる理由は女子野球の普及、そして女子野球のプロ化である。

 

 

戦後まもなく誕生した女子プロ野球

女子野球の歴史は意外と深い。諸説あるが、1947年に開かれた「横浜女子野球大会」というのが歴史の始まりだとされる。

 

当時、戦後の日本はGHQ支配下に置かれる。その中であらゆるスポーツは禁止されたのだが、「敗戦下の日本国民に娯楽を与える」という名目の下、野球は一足早く解禁され、それどころか後押しを受けるように推進される。これらの運動の中で、プロ野球は敗戦後の国民の希望となり、今の礎となる地位を確立したのだった。

 

その一連の動きの中で行われたものなのだろうが、やはり"余興"レベルで、本格的なスポーツと言えるレベルではなかったと推定される。

 

1950年には初の女子プロ野球である「日本女子野球連盟」が発足する。おそらく前年の1949年に起こったプロ野球再編問題や野球人気の勃興による煽りを受けてのことであろう。

 

見切り発車だったことは結果が示す。1952年に観客動員数だけでは経営できないということでノンプロ化。ものの僅か2年で頓挫したのだ。社会人野球として細々と続いていくものの、こちらも1971年には完全消滅している。

 

その後、女子ソフトボールの隆盛に押され、女子野球は表舞台から姿を消す。

 

 

一社のみの歪な女子プロ野球

2度目の女子プロ野球、「日本女子プロ野球機構」(JWBL)が発足したのは2009年。実に半世紀以上後のことであった。

 

女子野球はソフトボールの影に隠れながらも、高校生・大学生を中心とした学生野球の舞台で少しずつ輪を広げ、その歩みは遅くても着実に女子野球のバトンを繋いでいた。その中でのプロ化は関係者にとってのささやかな願いが叶った瞬間だったのだろう。

 

しかし、その実態は「わかさ生活」一社が運営している社内野球リーグのようなものであり、半分社会人野球のような側面を持つ歪なものだった。

 

それでも、このJWBLが果たした功績はあまりにも大きい。それまでほぼ横ばいでしか伸びていなかった女子野球人口がJWBLの発足を転機に急増したのだ。

 

ただ、問題となったのはやはりJWBLの興業性の乏しさである。

 

最初は物珍しさもあって安定した動員数をたたき出していたが、徐々に減少。その間、行き過ぎとも言えるファンサービスなど興行的要素を打ち出すなど、必死に繋ぎ止めようとしていたが、2019年には当時JWBLに所属していた71人のうち約半数以上となる36人が退団。2020年にはとどめを刺すようにコロナ禍に襲われた。

 

長年の赤字経営が響き、ついに2021年には無期限活動休止。事実上の消滅となり、約12年間に渡る2度目の女子プロ野球は幕を閉じることとなった。

 

以前からこのJWBLの存在を知っていた私は、実に惜しいと思っていた。もしNPBがチームを持って同じようにリーグ戦を行えばもっと盛り上がるのではないか、なぜNPBは参入及び協力しないのか、と疑問を抱いていたのだ。

 

 

NPB女子チーム発足、女子野球の未来とは

そんな中、大きな動きが起こる。2020年1月にJWBLから離脱した選手を中心に初のNPB公認球団となる「埼玉西武ライオンズ・レディース」が発足したのだ。

 

さらに翌年の2021年1月には「阪神タイガースWomen」、そして2022年に「読売ジャイアンツ女子チーム」がそれぞれ相次いで立ち上げ。JWBLの無期限活動休止に伴い、皮肉なことにこれまで傍観を続けていたNPB側がアクションを起こしたのだ。

 

この3チームの内、西武に関しては屋号だけを借りているような形態なのだが、阪神と巨人に関してはクラブチームでありながらも、監督やコーチは球団OBが就任して練習環境として2軍施設を使用するなど、球団側が本腰を入れてチームを作り上げている"本気度"を肌で感じる。

 

そして、この2チームの本拠地である阪神甲子園球場東京ドームはそれぞれ2021年から夏の全国大会である「全国高等学校女子硬式野球選手権大会」、2022年から春の全国大会である「全国高等学校女子硬式野球選抜大会」の決勝の舞台となっている。

 

特に高校球児の聖地である甲子園で女子高校野球の決勝が行われたことは大きな話題を呼び、女子高校野球のみならず女子野球界に大革命をもたらしたと言っても過言ではない。実際、JWBLが無期限活動休止となった2021年以降も女子野球の人口は減るどころか、過去最大級のレベルで増加しているのだ。

 

その中で、野球少女たちの目指すべき夢の舞台、ピラミッドの頂点としての受け皿的役割をNPB女子チームは期待されている。まだまだ手探りの中、今年もそれぞれ地域毎に開かれるリーグ戦やクラブチームNo.1を決める全日本女子硬式野球クラブ選手権大会などを戦い抜く予定だ。

 

また、特筆すべきなのは、今年の夏頃に甲子園にて「阪神タイガースWomen」対「読売ジャイアンツ女子チーム」の試合を行うことだ。

 

女子チームによる"伝統の一戦"の開催は、おそらく今後の女子野球界にとって大きな意味を持っていると思う。この試合の反響次第では、3度目の女子プロ野球へと大きく前進することも考えられるのだ。その際は間違いなくNPB女子チームが中心となって行われるものになろう。

 

その一方で、必ず越えなければいけない壁がある。それはずばり、女子プロスポーツの興業性である。

 

 

 

――後編に続く。

 

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佐々木朗希、止まらない進化



2023年4月14日。この日、佐々木朗希と山本由伸の初対決が行われた。

 

「令和の怪物」と謳われ、昨年4月には最年少完全試合を達成するなど、高卒4年目ながらその類い希なるポテンシャルを遺憾なく発揮している佐々木朗希。

 

一方で、2年連続投手四冠沢村賞を獲得し、まさに押しも押されぬ「NPBナンバーワン投手」にまで登り詰めた山本由伸。

 

この2人の対決に集まった観衆は、29,088人。金曜日ナイター開催でありながら満員御礼とまさにこの世紀の一戦を見届けようという注目度が窺える。

 

試合は大方の目論み通り、2人の白熱した投げ合いとなる。緊張感のある良い試合であったが、ロッテが茶谷のしぶといタイムリーで先制。朗希はこの1点のリードを守り抜いて7回無失点の快投。後続に後を託し、藤岡のダメ推しタイムリーもあって2-0でこの一戦をものにした。

 

結果で見ると2人の成績は次の通りだ。

 

佐々木朗希

7回被安打1与四球2奪三振11自責点0

 

山本由伸

6回被安打5与四球1奪三振9自責点1

 

彼らの投じる一球一球に対して観客が前のめりになり、ピリピリとした緊張感に包まれているのがわかる。ただのペナントリーグ戦の1試合ではなく、まるでWBCのような絶対に負けられないという雰囲気さえ感じ取れる良い試合であった。これぞプロフェッショナルな野球の醍醐味であり、このような試合が増えるとさらにNPBのファンは増えるであろうと感じた。

 

その中でもやはり目立ったのは佐々木朗希の進化である。

 

 

佐々木朗希のこれまでの歩み

 

佐々木朗希は鳴り物入り千葉ロッテマリーンズにドラフト1位で入団。1年目の春季キャンプからその存在感は際立っており、開幕1軍先発もあるのかとマスコミ、野球関係者、ファン共々盛り上がっていた。

 

しかし、そこに新型コロナによる開催延期が襲いかかる。この期間中で佐々木朗希の育成プランは一度頓挫。結局ルーキーイヤーは1軍どころか2軍ですらも1試合も登板しないで終えることになる。

 

佐々木朗希の初めての実戦登板は2年目の3月12日、本拠地マリンでの中日とのOP戦だった。果たしてどんな球を投げるのだろうと大きな注目が集まる中、この時の球速は150キロ台前半~中盤。やっぱり凄いなぁと感心した半面、「あれ、こんなもんなの?」と正直肩透かしを食らったのを今でも覚えている。

 

だが、今思うとあの頃の朗希は2,3割程度で投げていたのだろう。このシーズンでの公式戦も一度投げては一軍登録を抹消するという所謂「中10日登板」での起用法であり、本当の佐々木朗希を見ることはできなかった。

 

彼のポテンシャルが垣間見えたのは3年目。あの完全試合達成からだろう。昨年は最速160キロを越えるのが当たり前になり、平均球速も150キロ台中盤で安定。1年間通して先発ローテを守り抜いたことも大きな自信となった。

 

佐々木朗希の武器は160キロを越えるストレートだと思われがちだが、実際はフォークだ。あの球は分かっていても打てない魔球になっている。自分の中ではずっとストレートピッチャーではなく、フォークピッチャーだというイメージがある。

 

課題はむしろストレートだった。球速表示の割りに質が伴っていないのか、簡単にバットに当てられ、三振が思うように取れない。だから、困ったらフォークに頼りがちになってしまい、打者の目が慣れてくる3巡目くらいに打ち込まれてしまって序盤は完璧なのに結果的に2,3失点するというパターンが意外と多かった。また、80球前後になるとパフォーマンスが急に落ちる点も拍車を掛けていたのだろう。

 

 

完成へと向かう次世代最強投手

 

自信と課題を得た昨年。その中で迎えた今年はWBC日本代表に選出され、世界と戦った。その宮崎合宿でのホークスとの練習試合で、度肝を抜かれた。160キロ超のストレートに対する打者の反応が去年とはまるで違う。簡単に振り遅れの空振りを取ってしまう。本物の160キロ超のストレートだった。

 

そして、昨日。100球を越えてもなお出力を落とすことなく7回を投げきってみせた。昨年までなら間違いなく6回で代える展開だったはず。試合後、吉井監督はこの続投について「絶好の修行の場」と語った。

 


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昨年は80球前後で中6日をクリア。今年は100球前後で中6日に挑戦するのではないだろうか。この壁を越えた暁には、初の規定投球回数クリアは勿論、山本由伸から投手四冠沢村賞を勝ち取り、名実共に「NPBナンバーワン投手」となるはずだ。

 

課題を解決して進化が止まらない令和の怪物。着実に完成へと向かう次世代最強投手から、今後も目が離せない。