3度目の女子プロ野球へ(後編)
前編はこちらから。
前編では、3度目の女子プロ野球発足に向けて、過去2度の女子プロ野球の歴史と現在の女子野球の動きについて詳しく書いた。
今回の後編では、女子野球が再び"プロ化"を行う上で絶対に越えなければならない壁である"興業性"に触れていきたいと思う。
苦戦を強いられる女子プロスポーツ
日本における二大人気スポーツと言えば、野球とサッカーである。女子野球はここ数年でやっと競技人口が増えてきた一方で、女子サッカーは早くから競技人口が多かった。
特に2011年の女子ワールドカップ制覇の世界一、2012年のロンドンオリンピック銀メダルなどで大きな注目を集め、女子サッカー日本代表の愛称である「なでしこジャパン」の名前は世間に広く浸透していると言って良いだろう。
その中で、女子サッカーは2020年に女子プロサッカーリーグである「WEリーグ」を立ち上げた。立ち上げ時は全10チームで、中にはJリーグの女子チームも存在しており、大きなムーヴメントを期待されていた。
しかし、コロナ禍もあって思うように動員を伸ばせず、1年目のシーズンとなった2021-2022年は平均観客動員数が1,560人。目標に掲げていた5,000人の半分以下という苦しいスタートを強いられる。
ちなみに同年(2022年)のJリーグの各カテゴリ別の平均観客動員数は以下の通りだ。*1
J1:14,328人
J2:5,019人
J3:2,722人
J1は仕方ないとしても、最下層に位置するJ3にすら遠く及ばないのが現実である。
この状況は2年目のシーズンとなる今現在も変わっておらず、むしろ目新しさもなくなったことから数字が落ちているというのが現状だ。このまま右肩下がりの状況が続けば、いずれはJWBLのように無期限活動休止となる未来もそう遠くない。
成功している女子プロスポーツにある共通点
WEリーグのように男子プロスポーツと比べ、集客に苦しむ女子プロスポーツは少なくない。
その中で女子プロスポーツが男子プロスポーツと互角、あるいは上回っていると言えるスポーツは、ゴルフとバレーくらいではないだろうか。
男女プロゴルフ(JGTO、JLPGA)平均観客動員数*2
(2018)男子:15,324人 女子:14,667人
(2019)男子:14,252人 女子:17,509人
(2020)男子:無観客 女子:無観客
(2021)男子:6,139人 女子:5,317人
(2022)男子:7,335人 女子:10,231人
男女プロバレー(V.LEAGUE)1部リーグ平均観客動員数*3
(2017-2018)男子:2,731人 女子:2,363人
(2018-2019)男子:2,046人 女子:2,136人
(2019-2020)男子:2,741人 女子:2,301人
(2020-2021)男子:901人 女子:717人
(2021-2022)男子:859人 女子:783人
厳密にはV.LEAGUEはプロではなくセミプロであるのだが、ゴルフに関しては完全なるプロスポーツで、賞金女王を争うトップクラスになると億単位のお金を稼いでいる。選手人口はともかく、間違いなく女子プロスポーツ界ではナンバーワンと言えるだろう。
この2つのスポーツにある共通点は、競技性のハンディキャップと、ユニフォームの魅力にあると私は見ている。
男子に追いつくのではなく、いかに面白く見せるか
よく女子スポーツにありがちなのが、「男子に負けないように」といった風なフレーズである。
男子スポーツと比べたときに、やはりパフォーマンスのスピードやパワーの違いは歴然である。これは男女間における身体能力の差におけるもので、このギャップを埋めようとする動きはお門違いである。
勿論、前提としてプロフェッショナルであるならば、男子に負けないという向上心は最もである。だが、正しくは、男子に追いつくのではなく、同じ競技でありながら別の競技のように面白く見せられるかということが大事になるのだ。
そこで、ゴルフとバレーは男女別に細かいルールが異なる。
例えば、ゴルフではティーの位置が男女で異なっており、コース全体の距離も違う。バレーもネットの高さが男女で明確に変更されている。
これらの競技性のハンディキャップによって、男子と同じくらい、いやそれ以上に見栄えのあるスポーツとしての面白さを提供できている。
男子選手にはない女子選手の華
また、男子選手にはない、女子選手特有の華を活かすことも必要になる。これをユニフォームで最も活かしているのがまたゴルフとバレーになる。
女子ゴルフは色とりどりのウェアが、まるでファッションショーのように美しく可憐である。選手によって季節によって移り変わり、また、ウェア自体が選手のキャラクターやアイコンとなって魅力を引き出している。
女子バレーも高身長の選手が多いというスタイルの良さを活かし、手足が長くて綺麗に見えるユニフォームに特化している。女子バレー選手のビジュアルが良く映るのもこのユニフォームの恩恵といえる。
無論、こういったものがスポーツにおいて必要ないという観点も理解できる。だが、これが興業性の求められるプロスポーツであるならば話は別だ。いかにファンを増やして楽しませられるかというのも大事な要素になる。
こんなことを述べているとジェンダー論に巻き込まれそうだが、あくまで客観的な立場として論じている。実際、男子と同じユニフォームに拘っているスポーツは、残念ながら人気になっていないのもまた事実である。
女子プロ野球としての興業性
3度目の女子プロ野球に向け、必要なこととは一体何なのか。
競技性のハンディキャップに関してまず思いつくのが金属バットを使用できる点だ。木製バットに比べ、飛距離や打球のスピードを出せるため、女子選手には足りないスピードやパワーを大幅に補える。
また、9イニング制の男子と異なり、7イニング制であることも投手、野手の両方において体力面の差をカバーする大きなアドバンテージになるだろう。
私個人としてはホームラン数の少なさを補うために、ソフトボールなどで使用される簡易フェンスを利用して球場の広さを小さくするという工夫も欲しい。
実際、JWBL時代に本拠地の一つであるわかさスタジアムでは、ホームランを増やすために両翼90mのラッキーゾーンを設けていたという例が存在するので、正式なルールとして定めてもらいたい。
これらのことから競技性のハンディキャップについては女子野球は利があると見て良いだろう。では、ユニフォームの方はどうだろうか。
こちらの方はスライディングや飛び込みプレイ等の安全面を考慮すると、大幅な変更はやはり難しいと言える。かつて米国に存在した女子野球「プリティリーグ」では、選手はスカートを履くという規定があったそうだが、今の倫理観では厳しいだろう。
では、例えば女子ゴルフのウェアのようにいっそカラフルなユニフォームにするというのはどうだろうか。
ホームユニフォームはNPB女子チームという強みを活かして男子と同じユニフォームを着用し、アウェーユニフォームでは女子選手ならではの華を活かした可愛いらしいデザインにするというのも一考だと思う。
3度目の女子プロ野球へ。今度は確実に成功させてより良いものにするために、今は土台をしっかりと築き上げている過程だ。今後も当ブログでは女子野球の今をしっかりと見つめて追っていきたい。